職場が変わるということ

「本日からお世話になります、研修医の●●です!これから2ヶ月間、一生懸命頑張ります!どうかよろしくお願いいたします!」

研修医の頃、一番嫌だったのが診療科の朝礼の自己紹介だった。

朝、誰よりも早く病棟に行くのも、土日も必ず病棟に顔を出して回診をしたのも、深夜の臨時手術の呼び出しも、先輩医師の理不尽なダメ出しも不思議と辛いと思ったことはないのだが、何年経ってもこれだけは慣れなかった。

私の研修した大学病院では、2ヶ月から3ヶ月で内科、外科、救急科、麻酔科などをローテションする仕組みになっており、ちょうど慣れてきた頃に別の科に配属され、また一から人間関係、患者関係を作るという生活に私は多少ストレスを感じていた。

別に人間関係を築くのが不得意なタイプではないと自負しているが、それでも初対面の人に会うのは自分のテンションを上げて対応しなければならず、これは少なからずエネルギーのいる作業である。

ただ、ある時ふと、これが財産になっていることに気づいた。

2年間、自己紹介をしながら院内の主要各科を回ったおかげで、病院中のスタッフに顔なじみが増えたのである。

わからないことがあると、他科のドクターに、
「●●先生、お久しぶりでーす、ちょっと教えてください」
看護師にも、
「ねえ●●さん、こないだの薬の投与方法、他の先生はどんな感じにしてる?」
レントゲン技師にも、
「先日の救急患者の画像はどんなだった?見せてもらえる?」
、、、予想外に非常に業務が円滑に進むようになったのである。

もしかして研修の2年間で私が得たのは、高度な医療知識やテクニックなんかではなくて
「立場に関係なく相手を尊重して実直に向き合う」
「先輩を敬い謙虚な態度で接する」
「今できることに全力を尽くす」
といったごく人として当たり前のことだったのかもしれない、と今思い返している。(できているか未だ自信ないけど)

「職場が変わること」は面倒な作業ではあるけど、それによってスキルアップや人生で得られるものがあるならば、そのストレスは大したことないのかもしれない、と思ったりもする。

TK